名古屋高等裁判所 昭和25年(う)896号 判決 1950年8月18日
被告人
小川晃
主文
本件控訴を棄却する。
理由
弁護人相沢登喜男の控訴趣意について。
一件記録によれば、被告人は昭和二十四年十二月三日附を以て同年六月乃至十一月における五回の窃盜事実を起訴され、同年十二月二十三日弁護士龜井正男を弁護人に選任し、更に同二十五年一月二十日附を以て同二十三年七月乃至同二十四年三月の六回の窃盜事実を起訴され、同二十五年二月二十四日弁護士相沢登喜雄を弁護人に選任したこと及び同月二十五日附を以て右両弁護人の連名を以て右龜井弁護人を本件の主任弁護人とする旨の指定届出があつたことは論旨の通りである。而して被告人の龜井弁護人の選任がその後の追起訴事実を包含することが認められないから該事実に関しては弁護権が存しないものであり、又相沢弁護人の選任は追起訴後であつてその選任届記載の事件名からするも起訴全事実について弁護権があるものとすべきところ、龜井弁護人を本件主任弁護人に指定した点については、当初の起訴事実に関しては問題はないが、追起訴事実に関する限り、訴訟法上無意味に帰するものと解するの外はない。従つて追起訴事実については、主任弁護人は適法に存しなかつたのであつて、相沢弁護人はその弁護権を行使するについて、訴訟法上何等の制約を蒙るべき筋合でなかつたといわなければならない。然しながら弁護人が数人ある場合主任弁護人の指定があると刑事訴訟規則第二十五条によつて証拠物の謄写の請求、裁判書又は裁判を記載した調書の謄本、抄本の交付の請求及び公判期日における証拠調終了後の意見の陳述を除いて申立、申請、質問、尋問又は陳述は裁判官及び主任弁護人の同意を要する点において右のような場合その指定が違法で効力を生ぜぬにせよ一応表面的に主任弁護人が指定された以上、他の弁護人の弁護権行使が制限される可能性(主任弁護人の指定が適法である以上他の弁護人の弁護権行使が敍上の趣旨において制限されることは法の是認するものであつて、問題はない)を生ずるが、それは飽く迄可能性に止まり、その不法な主任弁護人の指定自体を以て、当然他の弁護人の弁護権行使の制限があつたものとすることはできない。加之右の主任弁護人の不法な指定は弁護人自からの敢えてしたところであり、旦つ一件記録上相沢弁護人がその不法な主任弁護人の指定の故にその弁護権の行使を不当に制限されたと認むべき形跡が存しないのであるから、この点における論旨は理由のないものとせねばならない。